学校管理下における柔道事故を考える(1)

今回は学校管理下における柔道事故・頭部外傷についてです.
頭部外傷・加速損傷について研究をしていますので,
少し記録をしておきます.

【何故私がこの研究を始めたのか】
平成20年3月 文部科学省が中学校学習指導要領の改訂を告示しました.
--武道・ダンスを含めたすべての領域を必修(武道必修化)--
そして,平成24年4月に新学習指導要領が完全実施されました.

文部科学省の告示後(武道必修化が決まってから),
学校管理下における柔道事故が取り上げられるようになりました.
もともと柔道の傷害に関する研究に興味があったこと※1,
そしてこの時(平成21-22年),競技者から正式なコーチ(指導者)という
立場になって2-3年目だったこともあり,
「学校管理下の柔道事故は何故起こるのか」ということを
理解したい,指導者としては理解しておく必要があると考えました.

※1 平成16年大学院修士課程1年の時,最初に書いた研究計画書の内容は
 「柔道のリスクマネージメント」,二つ目は「こどもの受け身動作」でした.
  研究機材の限界があり,そのときは断念しました.

私は,全日本柔道連盟医科学委員会に所属する
スポーツドクター(医者)の方と話す機会がよくあったため,
この問題についてよく議論しました.
先生は医者として,私は柔道家として,それぞれ意見を述べて
時には意見が食い違うこともありましたが,
少しでもこの問題を理解するためには必要なことでした.
とはいっても(当時,平成22-23年),
この問題に関する研究を進めているところがいくつかあったため
--後ろ受け身や後ろに転倒する条件での研究など--,
私が改めてこの問題の研究を行うことは考えていませんでした.

それから,少し経ち
平成23年9-10月頃,全日本柔道連盟医科学委員会の方から
「12月に International Judo symposium があるから
 この問題に関することを何でもいいから発表してくれないか.
 石井君の考えでいいから」
と頼まれました.
この頃になると,受け身の研究が盛んに行われていました.
ただ,私はこれらの研究に違和感を感じていたので,
そこについて少し突っ込んでみようと考え,データを用意しました.
ここでいう違和感は,
「頭部外傷が大外刈で最も多く発生しているから,
後ろ受け身の研究をしている」という部分でした.
私は,大外刈の受け身は後ろ受け身ではないのに(基本的な動作とは異なる),
なぜ多くの人が(基本的な)後ろ受け身の研究をするのだろうかと感じていました.

そこで,約束練習における大外刈と大内刈の受け身を比較し,
身体の接地順と身体各部の鉛直速度変化が異なることを発表しました.
どのように異なるかを簡単にいうと,
大内刈の身体の接地順は基本的な後ろ受け身に近いが,
大外刈はまったく違うということです.
私は,違和感を取り除くためにも,
後ろ受け身の研究や人形・ロボットを後ろに転倒させる研究では
大外刈における頭部外傷の発生メカニズムを明らかにすることや
予防法を提案することは困難だろうということを意見として述べました.
会場にいた半分以上の方が医者の先生で,
慶応義塾大学の先生(工学)などもいましたが
ここでは私の違和感を取り除くことはできませんでした.
というよりも,このシンポジウムに参加して
疑問に思うことが増えました.
医者の先生の中で,
「虐待で,こども(乳児,幼児)は頭を打たなくても急性硬膜下血腫になるから」
といい,「だから柔道でも起こるでしょ」というニュアンスで話をしていたからです.
虐待による頭部外傷についてはまったく知識がなかったので,
そこでは議論できませんでした.

長くなりましたが,
この違和感と疑問が(納得できない感じが),
この研究を始めるきっかけでした.

学校管理下における柔道事故を考える(2)につづく

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