選手選考を勝手に透明化

ここでは,競技柔道における日本代表選手の選考について考えてみる.2022年の世界選手権大会やアジア大会の代表選手選考の話しではなく,「選手選考」そのものの考え方をできるだけわかりやすく伝えてみよう(透明化?見える化してみよう)という試みである.ジュニア強化に関しては,混乱を避けるため,今回は説明から省く.
(限られた時間でババっと書くので,関係者で「内容間違っているよ」ということがあればご指摘を)

何のための選手選考なのか?

選手を選考するということは何か目的があるはずである.まずは,全日本柔道連盟(以下,全柔連)の強化システムに関する規定(日本代表選手を選考する手続き,その他の事項について定めたもの)にある目的を確認してみたい.

第一の目的はオリンピック競技大会、世界選手権大会等で金メダルを獲得することにある。

この目的を達成するために,日本代表選手を選考するので,ここがブレてはいけない.つまり,選手選考の手続きは,規定ありきではなく,この目的を達成できるように規定が定められていなければならない(もし,規定に問題があれば,改正するという意味で).そして,これに続いて書いてあることも重要である.

強化委員会において長期、中期、短期の強化計画を策定し、世界で金メダルを獲得できる選手を育成・強化すると共に日本代表として選考し、オリンピック競技大会、世界選手権大会等において金メダル複数を含む全階級でのメダル獲得を目指す。

ここに記載している通り,「世界で金メダルを獲得できる選手を育成・強化する」ことも目的になる.言い換えると,「国際競技力が世界一になれる水準まで選手を育成・強化する」ということであり,全柔連強化委員会は,ただ選手選考をする機能を持っているだけでなく,育成・強化する機能を持っていることになる.なので,選考大会を実施して,日本一(国内競技力が高い)の選手を選ぶという話ではなく,国際競技力が最も高い選手を選考しなければならない.さらに,第一の目的の補足になる内容として「金メダル複数を含む全階級でのメダル獲得を目指す」ということである.つまり,日本柔道は,他国が戦略的に行うような,あるカテゴリー(階級)を諦めて「選択と集中」をするということはない.全階級で金メダルを目指す.結果的にはメダルの色が変わるかもしれないが,全階級のメダル獲得を目的としている.ここは日本柔道特有の考え方になるので,他競技の選手選考と比較する場合は注意が必要である.

現状の育成・強化の対象者を選ぶまでの「流れ」を知る

さきほど,選手を育成・強化する機能を持っていると述べたが,全柔連の強化スタッフが直接的に国内のすべての選手を支援(育成・強化)することはできない.なので,まずは国内競技力が一定の水準に達した選手たちを全柔連の強化指定選手として選考する.この選考大会が,11月に行われる講道館杯全日本柔道体重別選手権大会(以下,講道館杯)である.ここで7位以内の選手から各階級8名程度がシニアの強化指定選手(B以上)に選ばれる(出場選手の状況から3位以内に入らないと選ばれない可能性もあるので,誤解のないように).そして,概ねこの8名が全日本選抜柔道体重別選手権大会(4月)に出場する.講道館杯で成果を出し,強化指定選手に選ばれた選手たちは,全日本合宿などに招集されて,稽古をしたり講習を受けたり,やっと直接的な育成・強化の支援を受けることになる.しかしながら,4-5番手から8番手くらいの選手たちは年に数回だけの支援である.フルの支援を受けられるのは,1-2番手で,多くても3-4番手に入った若手選手までである.なので,国内競技力に関しては,日本で4番手以内にならないと,国際競技力向上の支援を受けられるラインには乗ってこない.で,「各階級の4名は誰なのか?」であるが,これも先述した講道館杯終了後の強化委員会で選考されており,グランドスラム東京大会の出場権を得た4名がそれにあたる.できるだけ単純化して話すと(いったん全部白紙にしてよーいドンで考えると),講道館杯の結果で8名の強化指定選手を選び,順位をつける.そこで,上位4名がグランドスラム東京に出場する.ここまで読んでわかると思うが,講道館杯が終わった時点で,国際競技力の評価が受けられる人(フルの支援が受けられる可能性がある人)は,4名に絞られている.そして,グランドスラム東京の結果を踏まえて,講道館杯後の順位の見直しが行われる.そこで上位2名(明確な差がみられない時は3名の場合もある)に位置している選手が2月に行われるグランドスラム(フランス,ドイツ)に選ばれる.で,この欧州のグランドスラムの結果を踏まえて,また順位の見直しがあり,この見直し後の順位で,全日本選抜柔道体重別選手権大会のシード権が(だいたい)決まる.この大会には8名が出場するが,よっぽどのことがない限り,上位2名(第2シードまで)のうちのどちらかが世界選手権大会やオリンピックの代表に選ばれる.この選抜大会後に最終的な順位付けが行われて,晴れて1番手に選ばれた選手が代表選手(A指定選手)になる.この時点での上位の2-3名が強化スタッフのフルの支援を受けて(特定の選手だけにフォーカスした育成・強化の合宿なども組めるようになり),国際競技力向上を図ることになる.

順位付けの視点は変わる

ここまで説明した育成・強化の対象者を選ぶまでの流れ(簡略化したもの)を知ることが極めて重要であり,それぞれの段階で順位付けの視点が変わることを理解しなければならない.
まず,講道館杯は,基本的に「国内競技力」の視点で順位がつけられる.何度も書いて申し訳ないが,国内競技力の上位4名がグランドスラム東京に出場する.そして,グランドスラム東京,パリ,デュッセルドルフという各国際大会の後は,「国際競技力」の視点で順位の見直しが行われる.そして,最終選考会と銘が打たれる全日本選抜柔道体重別選手権大会は,「国際競技力」で最終的に順位の見直しが行われる.ここが,多くの方から一番誤解されていると思う.国内大会ではあるが,ここでの視点は「国内競技力」ではなく「国際競技力」である.この視点の解釈を間違えて,「なぜ日本で一番なのに選ばれないのか」と疑問を持つ方は多い.講道館杯の出場権を得る大会から講道館杯までが「国内競技力」が評価されて,それ以降は「国際競技力」の視点に変わっていることを理解していただくと,選手選考の見え方が変わると思う.

いっぴー
いっぴー

「じゃあ,全日本選抜柔道体重別選手権大会なんかやらずに国際大会の結果で決めちゃえばスッキリするじゃん」と,言われる方もいると思う.はっきり言えば,その通りである(;’∀’)

しかしながら,「不測の事態・不慮の事故によって」や「互いに同等の結果」で,甲乙つけがたいという状況があることから,最終的には同じ土俵にのせて判断をするということになる.このようなケースの場合は,この大会でよい結果を出した方が選ばれるが,それまでの国際大会の結果で「国際競技力」に明確な差がある場合は,直接対決で勝ったとしても,ひっくり返すことはできない.この視点が,最初の目的につながるので,再度引用する.

第一の目的はオリンピック競技大会、世界選手権大会等で金メダルを獲得することにある。

目的は日本一ではなく世界一である.日本一になれば世界一になれるという保証は何もない.それは,すでに歴史が証明していると思う.日本人が勝って当たり前という時代はとうの昔に終わっている.対人競技である柔道は,パフォーマンス構造からみても「国内競技力」≠「国際競技力」なので,一発選考はふさわしくない.もちろん,一般の方からすれば一発選考の方がわかりやすいとは思うが(;´Д`A “`

強化システムに関する規定を整理してみよう

ここまでを理解してから,強化システムに関する規定を整理したい.ここまでに何度も出てきた順位付けに関しては,以下の文章から手順がわかる.

男女各コーチ会議は日本代表選手候補者の原案を作成し、強化委員会が最終決定する。

日本語がおかしいが,男女各コーチはコーチ会議で案を作成し,強化委員会でそれが適切であるか,妥当であるかを判断する.代表選考だけでなく,基本的には,強化指定選手の選考も各国際大会の派遣対象者を決める選考もこの手順が踏まれる.そのため,その後にも記載されている

各大会における代表候補選手の情報収集は、監督が適切な強化コーチと共に行う。

となっており,選手の情報収集は監督と強化コーチが行わなければならない.ここが非常に重要で,試合結果だけで評価できない理由があるわけである.ここではすべては書ききれないが,例えば対戦相手の危険な行為(反則)によって日本選手が負傷して棄権した場合や審判のミスジャッジ(オフィシャルな場で間違っていたと認めるケースもある)で負けてしまった場合は,「運が悪かった」といって試合結果をそのまま評価することはできない.できる限り,「偶発的」な要素を除くことができるような情報収集もここには含まれているし,後ほど説明するナショナルチームの戦略に関する情報収集もここに含まれる.規程の中でも「結果」だけでなく「結果と内容」と記載されているが,「内容」に関する情報収集は監督・コーチが責任を持って行うことになる.
強化システムに関する規定の【(3)代表選手選考手順】の次に【(4)選考対象者の資格および行動規範】がある.ここでは簡潔に

a. 国際柔道連盟あるいは大会主催団体の出場資格条件を満たしていること。

が,条件として必要な部分になる(その他b以降はここで議論すると大変なことになるので省略).世界選手権大会の出場枠の条件は対象選手が国際柔道連盟(以下,IJF)の世界ランキング100位以内,パリ五輪では世界ランキング17位以内に入らなければならない.つまり,日本一になっても出場枠を獲得できていない選手は出場できないので,日本代表に選考することは原則できない.全柔連の選手選考のタイミングと世界選手権大会の条件が確認されるタイミングが異なるので,候補選手を立てて国際大会に出場していきポイントを得て,出場枠を獲得することもできるが,これは最悪の状況と思った方がよい(「見込み」で進めるケース).IJFの条件からもわかるように,日本一になれば選考できるというものでもないことは,これまでに挙げた複数の観点からも理解していただけたと思う.では,日本代表選手の選考の具体的な評価方法を確認してみたい.現状の強化システムに関する規定のオリンピックの選考は東京五輪の内容(改訂予定)なので,世界選手権大会の部分を一つずつみていきたい.

①オリンピックまたは世界選手権大会優勝者が、同年に日本で開催されるグランドスラムの同階級で優勝した場合は、次年度の世界選手権大会の代表選手として内定する。

2021年のグランドスラム東京がcovid-19感染拡大の影響を受けて中止になったため,2022の世界選手権大会の選考において内定制度の適用はなかった.
ここでは,以下の2つの質問に全柔連強化委員会はきちんと回答ができないといけないだろう.
1.なぜ,内定制度が必要なのか?
2.世界選手権大会優勝+グランドスラム東京優勝で内定することが妥当なのか?
そこで,勝手に答えてみる(全柔連の回答ではないよ).

いっぴー
いっぴー

なぜ,内定制度が必要なのだろうか?
これは,日本チームとして世界選手権大会やオリンピックで金メダルを獲得するためには極めて重要なことなんだ.難しい話になってしまうが,選手が世界選手権大会やオリンピックの時点でスポーツフォーム(最適な鍛錬度および準備体勢が整った状態)にあるかが勝負なんだ.ピリオダイゼーション理論を理解して,戦略的なトレーニング計画をデザインする必要がある(競技力の発達と適応).世界一になるということは,世界一難しいわけで,世界一努力すればなれるというものでもない.高度に構造化された意図的・計画的なトレーニングを中・長期で考えていきながら,オリンピックの出場枠を獲得するためにIJFのポイントも獲得していかなければならない.そうした戦略を実行していくためには大会数をコントロールできた方がよい.内定制度がなければ,国内での代表争いのために,マスターズ,欧州のグランドスラム,全日本選抜柔道体重別選手権大会など,勝たなければならない大会が多くなってしまう.これによって,世界選手権大会やオリンピックに合わせた最善の戦略カードをきることができないということもある.

ということで,内定制度が必要であることは,なんとなくわかっていただけただろうか.で,内定制度の必要性が理解できたとしても2の質問になると思う.

いっぴー
いっぴー

日本チームとして金メダル獲得のための戦略をとるために内定制度が必要なのは理解したけど,世界選手権大会の優勝とグランドスラム東京の優勝が内定を出すのに妥当なのだろうか?
ここは,今後議論が必要な部分ではあるが,考え方を整理したい.
まず,世界選手権大会優勝は,年間で最もレベルの高い大会でチャンピオンになったということなので,その時点で「国際競技力」が世界で最も高いことを証明したことになる.世界選手権大会のメダリストが翌年の世界選手権大会でメダルを獲得できる確率は40%程度であり,次の年も世界チャンピオンになれる確率は高いわけではない.ただ,先述した順位付けの流れの中で世界選手権大会で優勝し,グランドスラム東京でも優勝した選手をその後の大会の成果だけでひっくり返すことができるのかということになる(世界選手権大会の代表に選ばれた時点で1番手で,世界チャンピオンになって2番手と差を広げたことになっている).例えば,
A選手が世界選手権大会優勝,グランドスラム東京優勝(欧州のグランドスラムで負けている)
B選手がグランドスラムパリ優勝,全日本選抜体重別優勝(グランドスラム東京で負けている)
これを比較した時に,グランドスラム東京と全日本選抜体重別は同じ土俵に上がったことになるので,直接対決が1勝1敗だった場合でも,「国際競技力」の視点で比較した時にB選手がA選手を超えているということは難しい.ただ,2番手の選手も世界一を取れるだけの実力があると以下のようなことも起こる.
A選手が世界選手権大会優勝,グランドスラム東京優勝
B選手がマスターズ優勝,グランドスラムパリ優勝,全日本選抜体重別優勝
こんな成績になってくると,2名とも強くて嬉しいはずなのに,とても選考が悩ましいという状態になる.ただ,これでもB選手が超えたということは難しい.ほぼ同等とみた場合でも,前年度の成績はA選手の方が1番手で上になるので,A選手が選ばれる可能性は高い.
であれば,B選手が選ばれる可能性は,やはり同じ土俵で2連勝し,さらに国際大会で優れた成績を挙げなければならないだろう.世界一を押しのけて,日本代表になるためには,それくらいの試練は必要だと思う.グランドスラム東京で世界チャンプを「内定」させないという機会はあるので,グランドスラム東京の優勝を内定制度に組み込むことは妥当だと思われる(最善であるかはわからないが).

ということで,代表選手選考の基準では内定制度が最初に示されている.次に

②以上のほか、導入されている国内ポイントシステム※1 を代表選考の参考資料とし、下記(5)記載の対象大会の結果と内容から総合的に判断する。

となっている.ここで,国内ポイントシステムというものが出てくる.これがどのようなものかを理解しなければならない.その前に,ここに記載されている「下記(5)記載の対象大会」をみてみよう.

(5)選考判断の対象となる競技大会
① 国際大会
・前回のオリンピックまたは世界選手権大会
・マスターズ
・グランドスラム
・グランプリ
・コンチネンタルオープン
・大陸選手権大会(アジア競技大会、アジア・オセアニア選手権大会)
・その他(強化委員会が派遣する国際大会等)

② 国内大会
・講道館杯全日本体重別選手権大会
・全日本選抜体重別選手権大会
・全日本選手権大会(原則、男子は 100 ㎏超級、女子は 78 ㎏超級)

これらが選考の対象となる大会である.文章で書くと,このようになるが,先述した通り対象選手を絞っていく流れが基本的にはあるので,その流れの中での成果が問われる.先ほど挙げなかったグランドスラム以下の大会(大陸選手権を除く)は,「育成・強化」,「国際経験」,「ポイント獲得」などの意図が強調されて派遣されることが多い.もちろん大会結果は評価されるが,グランドスラム東京からの絞り込みでテーブルに上っていないと日本代表選手になるのは厳しいだろう.

そして,国内ポイントシステムは選手選考の重要な指標なので,こちらも理解が必要である.まずは,規程内の文章をみてみる.

国内ポイントシステムは、選考日から遡って2年間を評価対象期間とする(直近の1年間100%、その前の1年間 50%)。また、対象大会の順位のみでなく他の様々な要素も加味する。これらの要素は、大会のレベル、組合せ、対戦相手、出場選手の様相等を大会ごとに評価し傾斜配点をするものであり、代表選考の参考資料とする。

ここでも,いくつかの質問が出てくるだろう.
IJFの世界ランキングの仕組みがあるのに,なぜ国内ポイントシステムが必要だったのだろうか.
この質問は2つに分けられる.
1.なぜ,国内ポイントシステムができたのか?
2.IJFの世界ランキングの仕組みと何が違うのか?

いっぴー
いっぴー

なぜ,国内ポイントシステムができたのか?
これは,Wikiにも載っているが,第三者委員会に代表選考過程の透明化を要請されたことを受けて制定されたものである.この透明化で重要なことは,「選考基準を開示していること」と「できる限り客観的なものであること」だと思う.そもそも,代表選考で問題にされるものは,監督やNFが恣意的に代表選手を選ぶことができるという裁量の広さにある(全柔連がそうだったということではない).そういう意味では,この透明化では,この2点を考慮して国内ポイントシステムが機能していることが望ましい.強化システムに関する規定は開示されており(全柔連のウェブサイト),強化委員会での選手選考はメディアを入れて公開されている.基準の開示という点では問題ないと思われる.あとは,客観的な指標が強化委員会の持つ裁量の広さを適切なものにできているかという点が重要になるが,それは次の質問に関係するので置いておく.
続けて,もう一つの質問は,
IJFの世界ランキングの仕組みとは何が違うのか?
国内ポイントシステムなんか作らずに,日本の上位2-3名を平等に派遣して,IJFの世界ランキングだけで評価すればよいじゃないかと考える人もいると思う.ただ,どんなに平等に機会を与えようとしても,それは不可能である.同じグランドスラムでも出場選手が違えば,大会のレベルが大きく変わる.ポイントを獲得するためだけの派遣戦略も考えられるようになり,比較的出場者のレベルが低く,ポイントを獲得しやすい大会を狙うこともできる.これで,ポイントを争っても,適切に「国際競技力」を評価することはできない.この評価は,選手選考という意味合いだけでなく,強化の視点でも重要である(選手の改善点を洗い出すためにも).しつこいが,国際競技力が世界一になれる水準まで選手を育成・強化しながら,最終的な目的を達成できるように進めなければならない.この評価の尺度を適切にできるように,国内ポイントシステムは出場選手のレベルから大会をランク付けする仕組みになっている(グランドスラム以下).
もう少しわかりやすく式で示すと
国内ポイントシステム=国内大会ポイント+国際大会ポイント+強豪ポイントで構成されている.国内大会ポイントと国際大会ポイントは(5)選考判断の対象となる競技大会で示した大会になる.IJFとの違いを簡単に示すと以下の通りである.

評価国際柔道連盟
世界ランキングシステム
全日本柔道連盟
国内ポイントシステム
国内大会対象ではない講道館杯
全日本選抜体重別
全日本選手権
国際大会事前に大会ランクと
ポイントが振られている
出場選手のレベルで
変動する大会がある
強豪選手との対戦対象ではないオリンピック/世界選手権/
マスターズの優勝者に勝つとポイント付与
特徴年間6大会までに制限
スポーツ先進国が有利
ポイント獲得率,年間獲得ポイント
強豪選手ポイントなど
代表選考目線での客観化

ということで,気になるところは回答してみた.ただ,規定にある「結果と内容から総合的に判断する」という部分が裁量の広さに関係してくる.回答の中でも記載したが,国内ポイントシステムが客観的指標として機能し,強化委員会が持つ裁量の広さを適切な範囲にできていれば,基準の客観性が担保されていることになると思う.念のため,「総合的に判断する」の注意書きも示しておく.

「総合的に判断する」とは、例えば「成績」を考慮する際には、最終順位のみでなく他の種々の要素も判断材料とする。これらの要素とは、その大会のレベル、組合せ、対戦相手、 技の判定、負傷、その他最終結果に影響した可能性のある要素を意味する。世界選手権大会、アジア競技大会及び FISU ワールドユニバーシティゲームズにおいては、直近の伸び率、将来性等も選考の判断材料にできる。

この文章を読んでしまうと,裁量の範囲が広すぎるように感じてしまうので,この中の判断材料の要素は客観的な事実のみを取り扱い,「総合的な判断」が合理的であることが求められる.

③2名選出する階級については、国内ポイントシステム、下記(5)に記載の対象大会の結果と内容及び世界団体戦、オリンピックを視野に入れ、世界及び日本の競技力動静を鑑み選考する。

これで最後であるが,これは何を言っているのかというと,現状の世界柔道選手権大会のルールでは,出場枠の基準を満たしていれば,各国男女それぞれ最大9名(計18名)を出場させることができる.カテゴリーは男女7階級ずつなので,全階級で代表選手を選考すると男女2階級ずつが2名出場させることができる.その2名選出する階級の選考方法がここで記載されている.内容を見てわかるが,「世界団体戦,オリンピックを視野に入れ,世界及び日本の競技力動静を鑑み選考する」とあり,先ほどより裁量が広くなっている.ここの日本語もよくないが,「2名選出する階級については」ではなく,「2名選出する階級の2人目については」の方が適切である.そうしないと一人目の枠で他の階級と裁量の範囲が変ってしまう.念のため言っておくと,運用上は私が言っている形にはなっている.2人目に関しては,裁量を広げて,より強化しなければならないターゲット階級や経験を積ませることでオリンピックのメダル確率を上がることが期待できる選手を選ぶことも可能になっている.ただし,将来性や期待という可能性は主観になりやすいので,これまでに蓄積してきたデータなどを用いてきちんと根拠を示す必要がある.これがなければ,誰でも選べる裁量の範囲になってしまうからだ.この点は気を付けなければならないところだろう.

国内ポイントシステムの詳細|2022年4月21日追記

2日間バタバタと仕事してる合間に書いたので,乱筆乱文についてはご容赦を.国内ポイントシステムについて,もう少し詳しく知りたいという声もあったので追記する.
質問のアンサーで記載したが,国内ポイントシステムの構成はわかりやすく書くと
国内ポイントシステム=国内大会P+国際大会P+強豪P
と示すことができる(Pはポイント).あくまでも構成で,すべてのポイントを足してランキングをつけるわけではない.もう少し詳しく書くとこんな感じ.

直近1年間|100%付与1年前から2年前まで|50%付与
国内大会P国際大会P海外強豪選手P国内大会P国際大会P海外強豪選手P
講道館杯オリンピック/
世界選手権大会
オリンピック
優勝者
講道館杯オリンピック/
世界選手権大会
オリンピック
優勝者
全日本選抜
体重別
マスターズ世界選手権
優勝者
全日本選抜
体重別
マスターズ世界選手権
優勝者
全日本選手権グランドスラムマスターズ
優勝者
全日本選手権グランドスラムマスターズ
優勝者
 グランプリ  グランプリ 
 大陸選手権  大陸選手権 
 などなど  などなど 

ということで,直近1年間のポイントはそのまま付与されるが,1年経過するとそのポイントは半分になり,2年経過すると消滅するという仕組みになっている.この方法は,IJFの世界ランキングの仕組みに合わせている.これにより,選手選考の資格で説明したオリンピック・世界選手権大会の出場枠の獲得(世界ランキング何位以内)と合わせて評価することができるようになっている.で話を戻して,先ほど簡易的に記載した構成を少し書き換えると
国内ポイントシステム=(国内大会P+国際大会P+強豪選手P)×1.0+(国内大会P+国際大会P+強豪選手P)×0.5
になる.時系列で変化するので,まずはここまで理解できると全体像を把握できたことになる.では,それぞれの配点をみてみたい.

  国内大会ポイント国際大会ポイント
順位傾斜講道館杯選抜体重別全日本選手権オリンピック世界選手権マスターズABCD
1位100%80100100200180140100806040
2位70%5670701401269870564228
3位50%405050100907050403020
海外強豪選手ポイント
オリンピック優勝者20
世界選手権優勝者15
マスターズ優勝者10

それぞれの大会,順位,強豪選手の配点は,このようになっている.ここで,国際大会のポイント変動大会について説明する.前にも記載したが,グランドスラム以下の大会は,出場者のレベルで大会のランクが変わるようになっている.ここは具体的な事例を出した方がわかりやすいと思うので,グランドスラムよかろうもん大会とグランドスラムもっこす大会で比較してみたい.

 シード権を持つ出場者の世界ランキング 平均値から
算出した
国内ポイントシステムの
大会ランク
例えば第1第2第3第4第5第6第7第8平均
グランドスラム
よかろうもん大会
1347101318219.6A
グランドスタム
もっこす大会
91215192232424324.3B

同じグランドスラム大会なので,IJFの世界ランキングで付与される点数(ここにある通り)は優勝で1000ポイントである.しかしながら,上記した通り出場選手のレベルは大会ごとに変わるため,できる限り客観的に評価できるように,出場者の世界ランキングから大会ランクをつける仕組みになっている(算出方法はまたの機会に).で,例えば熊本次郎選手がグランドスラムよかろうもん大会で優勝し,第1シードのアレク・カロリン選手を決勝戦で破ったとする.アレク・カロリン選手は直近1年間でマスターズ優勝(10)・オリンピック優勝(20),その前の1年間でマスターズ優勝(10だけど半分になるよ)している選手で35ポイントを持っている.この場合,大会ランクA(100ポイント)で優勝し,さらに強豪選手に勝ったので135(100+35)ポイントが熊本選手に付与される.このような形で,IJFの大会ランキングよりも正確な評価ができるようになっている.
できる限り妥当な評価をしようと思うとシステムが複雑になり,簡易にし過ぎると適切な評価ができなくなる.監督・コーチが行う試合内容の情報収集(観察記録)も重要であり,それが偏ったものにならないように国内ポイントシステムが客観的な指標になっている.今後も,選手選考に関して分析と検証を続けて,できる限り少ない指標で,正確で妥当な評価ができるようにしていくことが望ましいと思う.

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