水分補給戦略

【大事なこと】
 熱中症とパフォーマンス低下の予防を同時に考える
【事前に知っておく前提】
運動+高温多湿で高体温になる.この高体温が各種の疲労を起こし,持久性のパフォーマンスを低下させる.その状態が進むと熱中症を起こす.
1時間を超えるトレーニングは,持久性が必要になるため,稽古時間を考えると持久性パフォーマンスの低下は,稽古の質を落とすことになる.
なので,高体温や水分補給について理解することは重要になる.



高体温については,時期を把握することで対策がしやすくなる.
熱中症の事故件数をみると,以下の通りである.

日本の場合,7月に入って急激に増えることから,6月末から7月にかけて,高体温の対策が必要になる.そのためには暑熱順化を理解する必要がある.
暑熱順化は生理学的に暑さになれるということであるが,汗に含まれる成分や深部体温の上昇率が変化する.適応までの期間は10日を目途(7日~14日くらい)に考える.暑熱順化した後は,リスクが減るので(深部体温が上がりにくくなるので),6月末から7月中旬にかけての水分補給やプレクーリング(事前に冷たいものを補給しておくなど)を戦略的に実施することでパフォーマンス低下を予防し,稽古の質を上げることができると考えられる.

【水分補給の考え方】
まとめ版

  • 運動中に失った水分はできるだけ早く補給する.稽古がハードでも,稽古後の体重が500g以上減っていないことが望ましい.稽古後も含めると損失量(体重が減った分)の150-200%を摂取することで,水分が完全に補給される.なので,次の日の稽古の質を上げるためにも,体重が減っていることを喜ばない.
  • 冷水,温水,ミネラルウォーターよりも,少し味がついた12~15℃の飲料のほうが補給量が多くなるので,ポカリスエットなどのスポーツドリンクで摂取する.電解質(塩分)はできる限り食事から摂るべきなので,OS1は良いが,稽古中に塩気が強すぎるものは控える.
  • 練習の中や後のリカバリーにおいても,15分ごとに約200mLずつ摂取することが望ましい.特に,暑熱順化するまでは,稽古中の水分摂取の頻度を高める.乱取りで考えれば最低でも4分3-4本くらいごとには水分補給をした方がよい.
  • 2つのトレーニングセッションや試合の間が短く,食事が十分できない場合は,飲料には少なくとも1.15g/Lのナトリウム,そしてできれば少量のカリウムを含んだものにすべきである.加えて、約2%の糖質濃度は腸による水とナトリウムの吸収を改善する.割合的には薄めていないポカリスエットや補給用ゼリーが適切である.暑熱順化するまでは,汗にナトリウムやカリウムが多く含まれるので,OS-1のような少し塩分の濃度が高いものを摂取した方がよい.
  • 塩の錠剤の摂取は,腸管内が高張になり,消化のための水分泌が増え,消化促進の問題を引き起こす可能性があることからすすめられない
  • 尿による電解質排出を促進することから,リカバリー中のカフェインの摂取は避ける.試合時のエナジードリンクはメリットもあるが,夏場の稽古のリカバリーを考えると,エナジードリンクを普段摂取することはおすすめできない.
  • 体重が減りやすい選手に関しては,ドリンクをポカリスエットよりも糖が多いものを摂っても問題ない.なぜなら,2.5g/100mL以上のグルコースを含む飲料の摂取は胃内排出速度を促進する.

ここは上記したもののエビデンスなので,無視してもらってもよい.
●運動中失った水分はできるだけ早く補給する。アスリートは運動前後に体重を測定し、必要な補給量を決定する。水分を完全に補給し、保持するためには損失量の150~200%の量を摂取する(Shirreffs et al.1996).
●冷水,温水,ミネラルウォーターよりも,少し味がついた12~15℃の飲料のほうが補給量が多くなる(Hubbard et al.1984).水分補給飲料のおいしさは,摂取させる刺激に対して重要である.飲料のナトリウム濃度を減らすために,電解質(塩分など)は食事に加えて摂取するべきである(Beckers et al.1992)。
●練習の中や後のリカバリーにおいても,15分ごとに約200mLずつ摂取することが推奨されている(Kovacs et al.2002)。
●2つのトレーニングセッションや試合の間が短く,食事が十分できない場合は,水分状態のリカバリーはもっぱら水分補給によって行われる.その際、食べ物を通して補給できない場合は,飲料には少なくとも1.15g/Lのナトリウム,そしてできれば少量のカリウムを含んだものにすべきである(Maughan and Shirreffs 1997).加えて、約2%の糖質濃度は腸による水とナトリウムの吸収を改善する(Brouns,Kovacs,and Senden 1998).
●塩の錠剤の摂取は,腸管内が高張になり,消化のための水分泌が増え,消化促進の問題を引き起こす可能性があることからすすめられない (Bigard and Guezennec 2003).
●尿による電解質(マグネシウムイオン,ナトリウムイオン,カルシウムイオン)排出を促進することから,リカバリー中のカフェインの摂取は避ける(Brouns et al.1998).
●2.5g/100mL以上のグルコースを含む飲料の摂取は胃内排出速度を促進する.塩やカリウムを加えすぎるとその速度は促進されなくなる(Owen et al.1998).
●血漿量を適切な浸透圧にするために,ミネラルの濃度はナトリウムイオン0.5~0.6g/L,塩化物イオン0.7~0.8g/L,カリウムイオン0.1~0.2g/Lにする(Lamb and Brodowicz 1986)。

  • 環境(温度、湿度、高度)
  • 体のサイズ(身長、体重、体脂肪、除脂肪体重)
  • 運動の種類、強度、および期間
  • 個人の発汗量
  • 汗で失われた電解質
  • 着用した衣類と備品
タイトルとURLをコピーしました